近年、仕事や職業に関して強い不安やストレスなどを感じている労働者の割合が高くなっており、また心の健康障害での通院者や、自殺者数が高い数値で推移しています。事業場におけるメンタルヘルス対策とは、心の健康に関する一次予防(「積極的な健康の保持増進=ヘルス・プロモーション」及び「仕事による健康障害の防止=ヘルス・プロテクション」という2つの概念を含む)、二次予防(健康不全の早期発見、早期対処)、三次予防(再発・再燃の防止ですが、ここでは職場復帰支援対策を含む)を含む広範な概念です。また、メンタルヘルス対策のひとつに、自殺の予防と対応がありますが、これもプリベンション(未然防止)、インターベンション(危機介入)、ポストベンション(事後対応)を含む広範な概念です。
メンタルヘルス対策の目的としては、たんに安全配慮義務の履行やメンタルヘルス不全に陥った労働者の職場適応のみならず、すべての労働者を対象に心の健康のレベルを引き上げることをも目的のひとつとして行われることが望まれます。
メンタルヘルス対策、とりわけ三次予防については、かつては主な対象として従来型のうつ病(メランコリ)が念頭におかれることが多かったですが、近年では、抗うつ剤が効きにくく長期化しやすいタイプのうつ病が増えつつあるといわれ、さらに双極性障害、統合失調症、睡眠障害などの者までを含めた、職場適応の在り方が問題となりつつあります。
メンタルヘルス対策については、労働安全衛生法第70条の2に基づき、事業場において事業者が講ずるように努めるべき労働者の心の健康の保持増進のための措置が適切かつ有効に実施されるよう「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(指針)が厚生労働大臣によって定められています。この指針の特徴としては、事業場においては、セルフケア(労働者自らのケア、事業者はこれを支援する)、ラインによるケア(管理監督者によるケアで、部下の健康管理や職場環境等の改善など)、産業保健スタッフ等によるケア(産業医や人事労務管理担当者などによるケア)、事業場外資源によるケア(中央労働災害防止協会健康確保推進部や産業保健推進センターなどの公的な機関の行う研修やコンサルティング事業などの活用や、精神科医やいわゆるEAPを活用した専門的なケアなど)の4つのメンタルヘルスケアが継続的かつ計画的に行われるよう、教育研修・情報提供を行うとともに、4つのケアを効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにする必要があるとしていることがあげられます。また、指針は、メンタルヘルス対策を進めるに当たって、「心の健康問題の特性」「労働者の個人情報の保護への配慮」「人事労務管理との関係」「家庭・個人生活等の職場以外の問題」に留意すべきであるとしています。
一次予防のうちのヘルス・プロモーションと二次予防については、以下の方法が中心となります。
- 心の健康についての正しい知識、ストレスへの気づきと対処方法、人間関係の手法等についての研修
- 事業場内外の相談体制の整備
- ストレスへの気づきの機会の付与など
一次予防のうちヘルス・プロテクションについては、労働時間管理、人事労務管理、仕事の方法、評価制度など労働者の心の健康に影響を与えうる事業場内の事項(職場環境等)についての問題を点検し、その改善を図ることが中心となります。
職場復帰については厚生労働省により「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が作成されており、その周知啓発を図っています。労働者は病気休職をするに当たっては、大きな不安を抱くことが通常であり、スムーズな職場復帰のためには病気休職の開始の段階から十分な配慮をすることが必要となり、また再発・再燃の防止のためには職場復帰後のフォローアップも重要となります。この手引きでは、職場復帰支援の流れを、単に職場復帰の時点を中心にとらえるのではなく、病気休業開始から職場復帰後のフォローアップまでの長いスパンを5つのステップに分けています。読売新聞が平成19年末に公表した世論調査によれば、働く人の34%が「うつ病などにより『心の健康』を損なう不安を」感じているとされていますが、職場復帰プログラムが企業内に確立していることは、労働者の安心につながり、全社的なモラールアップが期待されるところです。
メンタルヘルス対策の実施例については中央労働災害防止協会から、取組事例がパンフレット等で紹介されていますので、ご興味のある方はご覧ください。