労務管理のススメ PERSONNEL MANAGEMENT

11-3 整理解雇の留意点

1. 経営上の必要性
1. 経営の再建

経営が著しい不振に陥って過剰雇用が生じ、その過剰雇用を整理するための解雇を実施するときは、あらためて「経営再建のために本当に人員の整理が必要か」「人員の整理をしなければならないほど経営が行き詰まっているか」をチェックしてみます。そして、

  • 経営を再建するためには人員の整理が必要である
  • 人員の整理をしなければならないほど、経営が行き詰まっている

と判断された場合に、はじめて整理解雇の実施に踏み切ります。

2. 解雇権の濫用

企業としては、社員の雇用を守るべき義務と責任があります。社員も「会社は、自分たちの雇用を守ってくれるだろう」と期待しています。したがって、多少売上が低下したからとか赤字経営に転落したからといって、安易に整理解雇を行うことは許されません。
企業には、採用権とならんで、解雇権があります。しかし、解雇権があるからといって、その権利を濫用することは許されません。人員整理をしなければ経営の存続を図ることができないというギリギリの状況に追い込まれた場合に限って解雇権を発動しなければなりません。

2. 解雇回避の努力
1. 社員に与える影響

解雇は、社員の生活に打撃を与えます。収入が途絶えるという経済的打撃はもちろんのこと、心理的・精神的打撃も与えます。実際、数ある会社の中から「この会社が自分にふさわしい」と思って就職し、長い間にわたって働いた会社が経営不振に陥り、そのために会社から解雇されるということは、大きなショックです。精神的なよりどころを失う、と表現しても過言ではありません。

社員の中には「働くことが生きがいである」という人が少なくありません。そういう社員がいたからこそ、会社はここまでやってこられたわけです。ただ単に「1日8時間、会社から指示命令されたことをやっていればいい」「働くことは苦痛である。できれば働きたくない」と考える社員だけであれば、会社はここまで成長発展することができなかったはずです。

そのように、働くことが生きがいであり、喜びであるという社員にとって、解雇は「生きがいを奪われること」「喜びを失うこと」を意味するのです。
解雇は、社員の生活面、精神面に大きな影響を与えるので、会社としては、解雇を回避するための対策をギリギリまで講じなければなりません。

整理解雇実施上の留意点

整理解雇実施上の留意点

2. 解雇回避の対策

解雇の回避策としては、

  • 販路の拡大(新しい取引先の開拓)
  • 売上増加のための方策(例えば、商品のラインアップの見直しや価格の引下げなど)
  • 経費の節減
  • 不用資産、遊休資産の売却(例えば、土地、株式、ゴルフ会員権等の売却)
  • 人員面の対策(新規採用の抑制、パートタイマーの削減・解雇、一時休業、配置転換、希望退職など)
  • 賃金面の対策(昇級の停止、ベースアップの停止、諸手当の減額・不支給、基本給のカット、賞与の削減・不支給など)

などがあります。

これらの対策を積極的に講じてもなお過剰雇用が解消せず、かつ、近い将来においても経営が好転する可能性が見込めない場合に限って、やむを得ず整理解雇を行うべきです。

整理解雇に至るプロセス

整理解雇に至るプロセス

解雇を回避するための経営努力を総合的、積極的に講じても経営環境が良くならないので、やむを得ず解雇に踏み切るのであれば、社員も納得するでしょう。しかし、解雇回避のための努力をあまり講じることなく、解雇という手段に訴えるのでは、社員は納得しません。

3. 人選の合理性、妥当性

整理解雇の対象者の人選については、一定の合理的な基準を決め、その基準に基づいて公正に行うべきです。解雇基準としては、一般的に、年齢、勤続年数、扶養家族の有無、職種、公的資格などが考えられます。

解雇者の選定

解雇者の選定

解雇者の人選について、

  • 日頃から会社や職制に対して批判的な社員だけを対象とする
  • 労働組合の活動に熱心な社員を集中的に対象とする
  • 労働組合の設立に動いている社員だけを対象とする

など、無理があるのは良くありません。人選に合理性、妥当性が欠けていたり、明らかに不自然な点があると、解雇権の濫用あるいは不当労働行為と認定され、解雇が無効とされる可能性があります。

4. 女性の差別的取扱い

男女雇用機会均等法は「事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない(第8条)」と規定しています。

このため、

  • 女性社員のみを解雇の対象とする
  • 解雇について年齢を基準とする場合に、女性の年齢を男性より低くする(例えば、女性は45歳以上、男性は50歳以上とする)
  • 解雇について勤続年数を基準とする場合に、女性の勤続年数を男性より低くする(例えば、女性は勤続20年以上、男性は30年以上とする)

など、女性を差別的に取り扱うことはするべきではありません。