1. 解雇基準の決定
経営不振に伴って生じた過剰雇用を解消するために整理解雇を実施するときは、まず、次の事項を決定します。
1. 解雇人員
生産・販売・受注に比較してどれくらい人員が過剰になっているかを判断して、解雇人員を決定することになります。少ないと、過剰雇用が根本的に解消しないから、整理解雇を繰り返すことになります。逆に、あまり多いと、販売や受注が増加に転じたときに、円滑に対応することが困難になります。
2. 対象者の範囲
整理解雇は、社員を強制的に退職させるものです。退職によって、社員は収入がなくなり、経済的に大きな影響を受けます。とりわけ、何人もの扶養家族をかかえ、しかも、給与以外に収入のない者に与える影響は大きいのです。
一方、整理解雇は、仕事に比較して過剰となった労働力を社外に排出し、人員面で身軽になることによって経営の再建・再生を図ることを目的として実施するものです。その目的は、あくまでも経営の立て直しです。人員の整理は、「手段」であって「目的」ではありません。経営の再建・再生のためには、すぐれた人材は温存しておかなければなりません。
このため、対象者の範囲の決定に当たっては、
- 1解雇によって受ける経済的打撃が比較的小さいものであること
- 2仕事上の能力のレベルが比較的低い者であること。会社に対する貢献度が比較的少ない者であること
を基本的条件とするべきです。
このような基本的条件を踏まえると、解雇対象者の決定については、
- 年齢を基準とする
- 勤続年数を基準とする
- 扶養家族の有無を基準とする
- 特定の職種を対象とする
などが考えられます。
なお、労働基準法第19条により、次の者は解雇の対象とすることはできません。
- 1業務上の負傷疾病によって休業している者
- 2産前産後の休業中およびその後30日以内の者
基 準 | 例 示 |
---|---|
年齢 | 50歳以上 |
勤続年数 | 勤続30年以上 |
扶養家族の有無 | 扶養家族のいない者 |
職種 | 事務職、現業職 |
資格 | 公的職業資格を保有していない者 |
3. 除外条項
どのような基準を設ける場合でも、その基準を機械的に適用すると、会社の再建に必要な社員が解雇対象者の中に含まれてしまうおそれがあります。再建に必要な有能な社員を解雇してしまうと、それだけ再建に支障が生じてしまいます。このため、一定の基準を設ける場合でも
「ただし、業務遂行上特に必要な者は除く」という除外条件を付けるのが現実的対応といえるでしょう。
これによって、会社の再建に必要な技術・技能・資格、あるいは経験を有する人材を社外に排出してしまうという事態を防ぎます。
4. 解雇日
いつ解雇するかを決めます。
5. 退職金の取扱い
退職金については、
- 退職金規程で定められている金額を支払う
- 所定の退職金に上積みを行う
の2つの取扱いがあります。
整理解雇の場合、退職金を通常の退職の場合以上に優遇しなければならないという労働法上の規定はありません。退職金規程で定める算定式に従って算出すればいいわけであるが、会社の都合で雇用契約を解除するのであるから、できるかぎり優遇措置を講じるのが望ましいでしょう。
もしも、優遇措置を講じるときは、優遇の内容を明確にします。
退職金の優遇方法
- 1全員一律に一定額を上積みする
- 2年齢あるいは勤続年数の区分に応じて上積み額を決める
- 3全員一律に給与の一定月数を特別加算する
- 4年齢あるいは勤続年数の区分に応じて特別加算月数を決める
- 5全員一律に退職金の一定割合を特別加算する
- 6年齢あるいは勤続年数の区分に応じて加算割合を決める
2. 解雇実施の発表
解雇基準を正式に決定したあと、解雇の実施を社員に発表します。発表文のモデルは、以下のとおりです。
整理解雇実施の発表文
3. 解雇者の人選
解雇の対象者について、具体的に「誰を解雇するか」を決定します。
例えば「50歳以上の者を10名解雇する」と決定したときは、50歳以上の社員の中から10名を絞り込みます。
この場合、50歳以上の社員が全員で10名であれば、10名全員が解雇されるわけで特に問題は発生しませんが、50歳以上の社員が10名以上いるときは「どういう理由で10名を絞り込んだか」をはっきりさせておく必要があります。
経営者や役職者の個人的な感情や好き嫌いで対象者を絞り込むようなことがあってはなりません。
やはり、
- 出勤状況が良くない。身体の調子を理由にして休むことが多い
- 日頃から非協調的である
- 仕事上の能率が芳しくない
- 資格を持っていない
など、一定の理由がなければなりません。
4. 解雇の予告
1. 労働基準法の規定
解雇について、労働基準法は「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」(第20条)と規定しています。
労働基準法の規定
2. 予告書のモデル
労働基準法の規定に基づき、解雇日の30日前までに解雇者に対して解雇を予告します。労働基準法は、解雇の予告を規定しているだけで、予告の方法について特に定めていません。したがって、口頭による予告も考えられますが、正確さを期するため、書面で予告するのがよいでしょう。
解雇予告書のモデルと示すと、次のとおりです。
解雇予告書
3. 予告手当の支払い
30日前に予告できないときは、30日分の平均賃金を支払って解雇します。
この平均賃金の支払いを「解雇予告手当」と通称しています。ただし、予告日数と予告手当は、日割による換算が認められています。すなわち、30日の全部ないし一部をその日数の平均賃金で代替することもできます。例えば、15日前に予告し、15日分の予告手当を支払うという方法もあります。
「平均賃金」とは、過去3カ月間に支払われた賃金総額を3カ月間の総日数で割ったものをいいます。
賃金総額とは、3カ月間の賃金の総額をいい、家族手当などの諸手当、通勤手当も含みます。ただし、賞与は含めなくても差し支えありません。また、時間外手当、休日手当も含まれるから、基準内賃金が同じでも、時間外や休日出勤の多い社員ほど平均賃金も高いことになります。
3カ月間の総日数とは、暦上の日数をいいます。所定就業日数や実労働日数ではありません。
労働基準法は、30日分の平均賃金を支給すれば、翌日付で解雇できるわけですが、社員は、会社を解雇されると次の就職先を探さなければなりません。
世の中全体が不景気のときは、企業の求人意欲が減退しているため、再就職探しは楽ではなく、ハローワークに足を運んだからといって、良い条件の再就職先がすぐに見つかるわけではありません。特に、中高年の場合には、時間がかかります。このため、できる限り早めに解雇の予告を行うべきです。
5. 解雇辞令の交付
解雇日と定めていた日に、解雇者に対して解雇辞令を交付します。これにより、会社と解雇者との間に結ばれていた雇用契約は完全に解除されることになります。いいかえれば、雇用契約を解除することの証明が解雇辞令です。
解雇辞令のモデルは、以下のとおりです。
なお、解雇辞令を手渡すことができなかった者に対しては、書留郵便で自宅に送付します。「社員が辞令を受け取りにこない」といって、辞令を社内に放置しておくのはよくありません。
解雇辞令
1. 退職金の支払い
あらかじめ定めていた日に退職金を支払います。
2. 退職手続き
解雇した社員について、
- 公共職業安定所に雇用保険被保険者資格喪失届を提出する
- 本人に離職票を交付する
- 社会保険事務所に厚生年金・健康保険被保険者資格喪失届を提出する
- 本人に年金手帳を返却する
など、所定の退職手続きをとります。