労務管理のススメ PERSONNEL MANAGEMENT

6-3 制裁の種類とその意味

一般的な制裁の種類は戒告や謎責から始まり、懲戒解雇が一番重い処分となっています。ただし、「この事案はこの制裁」とハッキリ処分を決めることができない場合があります。たとえば、何もわからない新入社員が上司の指示どおり行なった結果、それが制裁に該当したときなどです。そのため、「情状酌量」の余地を入れ、制裁の程度を軽減する措置を設けることも必要です。

また、制裁には「二重処分の禁止の原則」と「比例原則」の2つの原則があり、処分を行なう場合は注意しなければなりません。「二重処分の禁止」とは、同一の事由に対して2回の処分はできないということです。一方の「比例原則」とは、程度に応じた適切な制裁処分を選択することをいいます。

1. 口頭で注意する「戒告」、始末書をとる「譴責」

戒告は、「口頭で注意する」ことで、制裁処分の中では一番軽いものです。また、證責は、「始末書を提出させて将来を戒めること」です。同じように取り扱っている場合もありますが、戒告は普段の業務の中で、制裁処分は譴責から行なうということであれば、譴責から対象にしてもよいでしょう。

また、理由もなくたびたび遅刻をしてくるなど、軽易な違反行為を繰り返す者に対しては、その都度「始末書」の提出を求めることが必要です。就業規則に「このような違反行為にはこの処分を行なう」と定めがありながら、それを実行しないのでは意味がありません。社員に「遅刻をしても許される」と判断されてしまいます。

違反行為を見逃さず、始末書の提出を求め、その都度上司が注意し、本人に反省を促しながら会社のルールを守ることを指導しなければなりません。
この始末書は、何か問題が起こったとき、第三者に対して納得させる資料と会社の正当性を主張する重要な証拠となります。

2. 給料から-定額を控除する「減給」

始末書を提出させ、賃金から-定額を控除する処分を「減給」といいます。ただし、減給する場合は、1回の額が平均賃金の1日分の半額以内、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1以内という制限が労基法にあり、就業規則にはこの範囲内で定めることが必要です。
たとえば、平均賃金が1万円、賃金総額が30万円の場合、制裁処分が1件のときは5000円まで、6件あれば3万円まで減給することができます。6件以上あっても3万円が限度ですが、7件目があれば翌月の賃金で減給することは可能です。

また、遅刻、早退などで働かなかった時間に対しての賃金控除は、制裁の減給には該当しません。賃金は、働いたとき支払い、働かなかったときは支払わないことが、基本的なルールです。
ただし、「1分遅刻しても30分控除する」というように、実際の遅刻時間を超えて定める場合があります。1分の遅刻分の賃金を控除することは可能ですが、29分の働いた分の賃金を控除することは、労基法の「賃金の全額払い」の原則に違反します。

遅刻をすることは労働契約に違反する行為なので制裁の対象にするという場合は、就業規則に制裁の減給として定めれば、29分は制裁処分としての減給扱いとすることができます。この場合も、減給制限範囲内であることが必要です。

3. 一定期間出勤を禁止する「出勤停止」

出勤停止は始末書を提出させ出勤を一定期間停止し、その間の賃金は支給しないという処分です。出勤停止期間についての法的な規制はありませんが、長期になれば社員は生活に困るため、行政指導としては7日以内を目安にしています。
ただし、この7日以内が営業日なのか暦日なのかは一般的に曖昧になっています。その都度判断に迷うことがないように、就業規則で明確に規定しておくことが必要です。

4. 退職を促す「諭旨解雇」

諭旨解雇とは、本来は懲戒解雇になるところを本人が反省していることなどを理由として懲戒解雇を猶予し、自主的な退職願の提出を勧告する事を言います。これに応じないときは懲戒解雇となります。
形式的には自己都合退職ですが、実質的には懲戒解雇に等しい処分です。

5. 一番重い「懲戒解雇」

懲戒解雇は最も重い制裁処分で、一般的には労基法の解雇手続きを踏んで即時解雇とします。会社から排除しなければならない重大な違反行為に対して行います。そのため横領等の不正行為で懲戒解雇をするときは、労基署長の認定を受けることで解雇手続きが不要になります。
懲戒解雇の処分は本人の賞罰経歴となり、一般的には退職金が不支給もしくは減額されます。そのため、事実関係を良く調査してから慎重に処分することが必要です。

部下の制裁処分に対して上司に管理監督責任を求めるのであれば、その定めも必要です。しかし、異動直後から管理監督責任を求めるのはあまりにも酷ですので、半年程度は制裁の対象から除外しておく定めも必要です。

人間である以上、社員は業務の過程で会社に様々な損害を与える可能性があります。その場合、会社は実際に損害が発生した場合には、損害賠償を社員に求めることはできます。しかし、小さな怠慢で生じた軽微な損害までも求めることは適当ではありませんので、「故意または重大な過失により損害を与えた場合」という要件をつけることが一般的でしょう。
ただし、「○○の過失があった場合はいくら」というようにあらかじめ違約金を定めておくことは「賠償予定の禁止」に該当し、労基法で禁止されています。