1. なぜ基本給連動型退職金ではダメなのか
退職金も広い意味での賃金です。人事制度の改定を行なう際には、退職金制度も合わせて見直しをすべきです。
退職金の算定が「退職時の基本給×支給係数」という基本給連動型の退職金制度の場合は、特に重要な意味を持ちます。
なぜなら、基本給を見直しすることによって、退職金の支給水準に大きな影響を与えることになるからです。
逆をいうと、退職金への跳ね返りを考慮しながらでは、基本給の抜本的な見直しもできないことになりかねません。
原則的には、基本給と退職金は切り離すべきです。
退職金には3つの意味がありますが、功労報償にウェイトを置いた制度への移行が望ましいといえます。
- 功労報奨説…会社への貢献度合いや実績に応じて受け取るもの
- 賃金後払い説…月例給与や賞与の後払いとして受け取るもの
- 老後の生活保障説…老後の生活保障として受け取るもの
退職金制度の見直しを行なう際には、3つの視点を考慮して、企業のスタンスを決定します。
支給水準については、世間相場も加味して決定します。
地域別の退職金の水準は、商工会議所、中小企業家同友会などの団体で調査したものが参考になります。
退職金制度の選択肢は次の通りです
2. 退職金はテーブル方式かポイント制に移行する
基本給連動型退職金制度を維持したままで、退職金制度を手直しすることも可能ですが、根本的な解決にはなりません。また、不利益変更に該当する場合もありますので十分な注意が必要です。
退職金制度は、極力テーブル式かポイント制退職金へ移行したいものです。
参考までに、基本給連動型退職金の手直しによる対応法について触れておきます。
(1)支給乗率の見直し
退職金制度改定で最も簡単な方法です。従来の支給係数を変更することによって退職金の支給水準を変更することができます。
(2)算定基礎額の見直し
退職金の算定基礎額の見直しを行なうことによって、退職金の水準を見直すことも可能です。
- 基本給の○%を算定基礎とする
- 基本給+役職手当を算定基礎とする
- 第一基本給、第二基本給に分け、第一基本給を算定基礎とする
改定の方法としては簡単である反面、企業に対する貢献度を反映できないというデメリットは解消されません。
3. テーブル式退職金の具体的設計方法
基本給連動型の退職金制度から、非連動型の退職金への移行で、比較的管理が簡単で、貢献度も反映できる方法として「テーブル方式」という選択肢があります。
(1)等級別基礎額テーブル方式
この方式は、従来型の算定に近い形で運用できます。退職時の基本給を算定基礎額から外し、退職時の等級ごとに設定した金額を算定基礎額とする方式です。
退職金額 = 退職時等級別金額 × 勤続年数別支給率 × 退職事由係数
(2)勤続年数別テーブル方式
これは、従来の勤続年数別支給率に着目し、勤続年数ごとに金額テーブルを設ける方式です。
退職金額 = 勤続年数別金額 × 退職事由係数
(3)基準額テーブル方式
(2)の勤続年数別テーブルに等級別の支給率を掛けることで年功要素に貢献要素を加味する方式です。
退職金額 = 勤続年数別金額 ×等級別支給率 × 退職事由係数
(4)各テーブル方式の特徴と留意点
4. ポイント制退職金の具体的設計方法
退職金制度の中で、最も設計の柔軟性が高く、貢献度をきめ細かく反映できるのが、ポイント制退職金制度です。
既得権部分の退職金もポイント化することによって、容易に新制度へ移行できる点においても優れています。
設計時には手数が掛かりますが、その後の運用を考えた際には、このポイント制退職金の導入をお勧めします。
(1)ポイント対象例
- 勤続年数
- 資格等級
- 会社業績
- 役職
- 個人評価結果
(2)ポイント単価
通常ポイント単価は、10,000円で設定します。しかし、単価は会社業績、世間相場、物価変動に伴って変動させることも視野に入れておきます。定期的に見直すことを規則に明記しておきます。
(3)既得退職金(社員の持ち分)ポイントの算出
- 既得退職金ポイント = 退職金額 ÷ ポイント単価
- 390ポイント = 390万円 ÷ @10,000 (ポイント単価10,000円の場合)
新制度への移行イメージ(等級ポイント単一型の場合)
退職金 =(既得退職金P+等級P)× ポイント単価 × 退職事由別係数
(4)昇格モデルの設定
社員の標準昇格モデルを設定します。
(5)モデル退職金とポイント配分の決定
今後の標準者のモデルとなる退職金と、勤続、役職、等級など、各要素に対するポイントの配分を決定します。
通常は「勤続ポイント」「等級ポイント」の2本建で設計します。
(6)定年までの退職金シミュレーション作成
設定したポイントをもとに、定年までの退職金を確認し、グラフ化します。
理想とするカーブを描けているかを検証し、問題がなければ決定します。
カーブに大きな段差が生じるようであれば、ポイント配分の傾斜を見直します。
(7)自己都合係数の決定
最後に自己都合係数を決定します。
会社都合退職の場合と同様にシミュレーションとグラフ化を行ないます。