人事賃金制度のススメ SALARY SYSTEM

2-1 総額・個別人件費水準の設定、役職・等級制度から設計する

1. 適正労働分配率の算定と移行計画の作り方

人件費はどの企業においても三大経費の一つになっているはずです。適正な人件費管理なくして、健全な経営は成り立ちません。
企業にとっての適正労働分配率は、目標利益、目標売上高から逆算して導き出していくことができます。

この計算から導き出される適正労働分配率は、現実とはかけ離れたものになってしまう場合があります。適性労働分配率は、経営者が総合的判断の上で見極めるべきでしょう。
適正労働分配率と、現状の労働分配率が大きくかけ離れている場合、一気に適正労働分配率レベルに引き下げることは、難しくなります。
このような場合は、3年から5年のスパンで、水準の是正を行っていく計画を立てることが妥当でしょう。 昇給率、賞与支給係数の調整で、個別賃金へのインパクトが緩和されるような措置を講じていくべきです。

労働分配率是正計画の例

2. 個別人件費水準を底上げするためのポイント

生計費や、同業他社の賃金水準との比較分析を行った結果、自社の賃金水準が相当低いことが判明した場合、どのように個別賃金水準を引き上げていけばいいのでしょう。
これは、人事制度だけの問題ではなく、経営的な問題と大きく関係してきます。
労働分配率を上げずに、個別賃金水準を引き上げるということは、相反するように見えます。しかし、その手段はあります。
労働分配率の計算式は以下のようになっています。

更に、総額人件費と付加価値は以下の計算式によって成り立っています。

総額人件費=一人当たり人件費×社員数
付加価値=売上高×付加価値率

このように見ると、労働分配率を上昇させずに一人当たり人件費の水準を引き上げるための方法が見えてきます。
第一は、社員数の適正化です。定年退職者、中途退職者の補充を制限する、定型業務であれば、パート社員で補充するなどの人員調整を行うことにより、一人当たりの人件費を高めていくことができるようになります。
第二は、付加価値を増やすことです。付加価値が高まれば人件費へ配分できる金額を増加させることができます。付加価値を高めるために、生産コスト・仕入れコストの低減、間接人員を売上・利益の向上に直結する部門へ配置転換する、などの施策を打っていくことがポイントとなります。

3. 個別人件費水準を引き下げるためのポイント

自社の個別賃金水準が、生計費や同業他社との比較分析を行った結果、かなり高いことが分かった場合の対処方法です。
個別人件費が高く、労働分配率が適正あれば、理想の経営状態であると言えます。
「高賃金・低労働分配率」は企業にとっても社員にとってもよいことです。
しかし、「高賃金・高労働分配率」となっている場合は、個別賃金水準の是正が必要になることもあります。まずは、前節で解説したような検討を行った上で、それでも個別賃金水準の是正が必要になった場合は、やむを得ず水準訂正を行います。
手法的に一番簡単なのは、全社員の賃金一律カットですが、この方法は絶対にお勧めできません。労働基準法上も賃金カットに関しては厳しい要件を課しています。労務トラブルのもとになることはもちろん、社員の士気低下、優秀な社員の退職といった、多くの問題をもたらすからです。
この場合は、新しい賃金制度の基本設計の中で、是正されたモデル賃金をきちんと作りこみます。それを基礎として、賃金表、昇給率を設定し、10年スパンで水準訂正を行っていくべきです。
経営状況がそのようなスパンを許さない場合は、賞与支給率(月数)の変更、昇給率(昇給額)の抑制・あるいは停止、によって3年から5年のスパンで修正を図るべきです。

4. 等級が持つ機能を理解する

一般的に、企業は一般職に対しては職務の遂行を求め、管理職に対しては役割の遂行を求めています。その担うべき担当職務や役割を明確にするために部門や役職が存在しています。
その一方、企業内には異なった役割を果たす部門が存在します。また、同じ部門であっても、人員の数、売上や利益の規模が違う部署が存在する場合も多くみられます。
このように複数の要素がある組織において、役職だけで組織横断的な社員の位置づけを明確化することはできません。
組織横断的に担当職務や役割の相対的な位置づけを明確化するための枠組みが等級制度なのです。1事業所、かつ単一機能の企業であれば、役職だけで人事制度全体を作り上げることも可能ですが、ほとんどの企業においては等級制度を人事制度の核におく必要があります。

等級フレームの例

5. 必要な等級数は社員数によって違う

企業に必要な社員の階層分けの数、すなわち等級数は企業の人員数との関係が強くなります。 業種や部門数を考慮せず一般的な見方をすると、社員数と等級数の関係は概ね以下のようになります。

社員数 等級
50名程度まで 4~5等級
50名から100名程度まで 5~7等級
100名から200名程度 6~8等級
200名以上 7~10等級

ここで重要なことは、等級数は組織内における担当職務、役割に応じた社員の階層分けをするためのものであるということです。
したがって、各等級の違いを明確に示す必要があるということです。単に処遇の格差をつける目的で等級数を多くすることには意味がありません。
等級数は、明確に等級間の違いを文章化できる範囲で設定しなければ、過去の職能資格制度と同様、年功的な賃金制度になってしまうことになります。

6. 社員数が同じでも業種特性で等級数は変わる

前節では、従業員数と等級数の関係について触れましたが、業種と等級数の関係にも触れてみます。
一般的に製造業では、社員数が多くても定型的業務が多いため、等級数は少なめになります。
一方、高度な専門技術や知識を必要とするサービス業では、等級数が多く必要になります。
以下はある程度の目安と考えていただきたい基準です。

業種 標準との比較
製造業 標準-1
小売業 標準±0
卸売業 標準±0
サービス業 標準+1
7. 役職と等級を連動させなければならない理由

結論からいえば役職と等級は一対一で対応させるべきです。その理由は、組織は役職に基づく指揮命令系統で機能しているからです。役職と等級を極力一対一で対応させることによって、経営と人事が近づくことになります。
ただし、同じ機能を持った部門であっても、規模や役割の大きさが違う場合がありますので、一対一での貼り付けが難しい場合もあります。多くの地域に拠点展開している企業や、店舗展開をしている企業では、必ずしも一対一で対応させる必要はありません。